第186回 歯の矯正と共に3年間

トロンボーン奏者でアレクサンダーテクニーク教師のかたさんです。

今日は私の生徒のお話です。
これは前回の記事にも通じるものがあります。

前回記事はこちら。
185回「慣れてないから出来ない」
https://katasan-tb.com/blog-no-185/

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【矯正し続けの3年間】

この生徒はトロンボーンを吹いており、高校の3年間私の生徒だったのです。
といっても、まだ卒業までの1カ月ほどレッスンは行いますけどね。

この生徒の3年間は、歯の矯正と共に過ごしました。
何回器具を変えたでしょう。
その度に感覚が変わり、慣れてきた頃に別の器具へ変わることの繰り返しでした。

音の変化もあることはありますが、聴いている限りそれほど大きな変化はありません。
日々の調子の変化程度のものです。

しかし、吹いている方としてはいつもと感覚が違い過ぎるのです。
これはだれでも困るでしょう。

アレクサンダーテクニークにおいて「感覚は当てにならない」とはよく言われます。
でも、演奏者というのは、何よりも吹奏感など感覚を頼りにするものです。
当然、この生徒も毎回その感覚に戸惑い、吹き難さを感じていました。

それが3年間、ずっと続いていたのです。

【経験論は通じにくい】

感覚の違いをたくさん経験してきた私やプロの演奏家なら、そういた時の対処法をいくつも知っているはずです。
ですが、経験の浅い中学生高校生、しかも感受性豊かでまじめな生徒はなかなか対処しづらいでしょう。

そんな時、我々がよくやりがちなことで「それはそういうもんだから」という経験論で諭そうと言うやり方。
これは、本当に通じにくいのです。
もちろん、これも経験論ですが。

「そういうことは沢山あるから乗り越えろ」はもちろん、「いずれ慣れるよ」ですら、若い中学生高校生には真の意味で通じません。
というか、理解出来ません。出来るわけがない。

これは今の子だからではないです。
昔の子供だって理解出来ないことはあるのです。
その実例が私。
経験論で済ませようという論理には、上辺だけの返事で済ませてきました。

なので、私はこの生徒に経験論で物を言うのではなく、この生徒なりに納得がいく話を伝えようとしました。
それを話すのに、アレクサンダーテクニークはとても役に立ちました。

【新しい感覚を受け入れ音の探究を目的にする】

楽器を構えマウスピースを口に当てた時、今までと違う場所にフィットしたり、器具により当たる感触の違和感、時には痛みなども起こり、全てが全く違ってしまって感じていました。

当然ですよね、そりゃ。
そこで先ず私が話したことは、“今までと違って当然。最初はそれを受け入れよう”でした。

「当たった感触の違和感に意識が持っていかれがちだけど、大事なのは音。以前の吹き方や感触を探求しても、残念ながらそこにはいかないんだ。以前の感触ではなく以前の音を探求しよう」

感覚ではなく音の探究に意識を向ける事をしました。
こうするとこういう音になる、思った音にならなかった時は何をしていたか、など意識したことと出た結果の音の違いなどをつぶさに観察することを勧めました。
こうしておくと、違和感の体験よりもしたい事に対しての欲求に変わっていくのです。

当然、音の変化の注意は今まで以上に必要になってきます。
私がお手伝いするとしたらここ、これが私の仕事です。
聴こえている音を注意深く聴き、その時の生徒の感じている感覚と照らし合わせ「今はこうなった」とか、「一回前に比べ感じはどう?聴こえ方はどう?」など質問をしながら、その時の呼吸、腕の使い方、腕を使うための姿勢の取り方、股関節の可動も含めた下半身と上体の姿勢の関係も合わせて見て、都度提案と実験をしながらゆっくり丁寧にレッスンしました。

これを3年間続けました。
覚えているだけで4回は矯正器具を変えています。
時には音の質の種類が大きく変化した時もありましたが、この生徒の持ち味がより出た瞬間だったと私は感じた時でもありました。

違和感はどうしても付きまとうので、その「違和感を受け入れる」ことを受け入れてくれたこの生徒の柔軟な思考と感性が、結果的にいい音を持続させたと思っています。

この生徒ももうすぐ卒業し、新たな世界に羽ばたいていきます。

2020・2・26 第7回トロンボーンエンジェルスコンサート情報はこちら
https://katasan-tb.com/tromboneangels-7th-regularconcert/

2020・3・29 稲沢市中高生限定ワークショップ情報とお申込みはこちら
https://katasan-tb.com/workshop-at-inazawa/

2020・4・12 岐阜県各務原市ワークショップ情報とお申込みはこちら
https://katasan-tb.com/workshop-at-kakamigahara/

2020・5・23 東京ワークショップ情報とお申込みはこちら
https://katasan-tb.com/workshop-tokyo/

「第186回 歯の矯正と共に3年間」への2件のフィードバック

  1. 片山様、こちらのレッスンの内容・矯正中の生徒さんとの関わり方を読んでいて、涙が出ました。
    実は私も個人レッスンで中学1年生の11月頃
    ~現在高校2年生になりました生徒さんと関わらせて頂いており、まだ上下裏とも、歯の矯正中です。
    私は矯正の経験が無いため、口内炎の痛さ位しか気持ちがわからなくて。矯正中は、口内炎が2~3個は当たり前と言っている生徒さん。
    痛いのに、楽器が好きだから忘れて練習・演奏している、その情熱は計り知れません。
    生徒さんは、最初は中学2年の丁度、3月頃、
    ソロコンテストの予選に
    前歯から3番目を抜き、本選には、左右3番目が無い状態で無伴奏の曲を演奏し、音の響きや音の質・ニュアンス・間・自分がどんな演奏をしたいのか?だけに集中するレッスンをして参りました
    。また、私の大学の先輩のレッスンを自分が受ける事で、ある対策に気付かせて頂き、アレクサンダーテクニークの何度か受けたレッスンにより、色んな事を取り入れながら。
    クラリネットのアンブシュアには、拘らずに本人が内側の唇を切る事なく、逆にクラリネットの
    アンブシュアに置いて豊かな響きを邪魔してしまう噛みグセは、矯正中の生徒さんの方が無いかもしれないと言う事が最近、わかりました。
    矯正の器具を付け直した2週間くらいは、無理なパッセージは、一旦、置いて、出来ることを本人が無理のないように進めて参りました。
    本人は矯正が変わる度に、「また変えなくちゃ!」と言ってますが、矯正に負担の掛からない方法を自分で見つけているようです。
    ソロコンでの審査の結果と審査員の講評用紙に、「聴いていて楽しい演奏だった」
    「ppが美しい」「fが美しい」「音色が美しい
    」「シャルモー音域を良く響かせていてGood!」と書かれていました。片山様のプログを拝見し、自分の関わり方、レッスンの仕方で良かったのだとホットしました。レッスン内容も、その都度、これは今、歯や唇に負担になるか?ならないか?良いのか?生徒さんと話し合い、聞きながら共に歩んでおります。技術的にもシッカリして一緒に演奏する機会も増えました。
    元々、細かい事を気にしない!
    そのポジティブな生徒さんの性格が私を気にしすぎぬ人間に変えるきっかけとなり、また、生徒さんの細かい事を気にしない性格とは反対に、
    いつの間にか音楽のニュアンスや音色や響きに関しては拘ると言うクラリネット吹きに変わっておりました。大学受験生前までに私が教えられる事は全て、また、新しい事を取り入れながらレッスンしていきたいと思います。
    貴重なプログを読ませて頂きありがとうございました。

    1. 二谷様

      初めまして。トロンボーン奏者でアレクサンダーテクニーク教師の片山直樹と申します。

      ブログをお読みいただき、またコメントありがとうございます。
      コメント内の生徒さんは、歯を抜くまでしたのですね。
      それでもコンクールでいい評価をしてもらえたことは素晴らしですね。
      ご本人がそれだけよく探求されたことと、二谷さまのご指導の賜物と思います。
      ステキです。

      私も二谷さまと同じく矯正経験がないので、矯正による感覚変化はわかりません。
      しかし、その他の変化はたくさん経験していますので、その経験とアレクサンダーテクニークを合わせてレッスンに使っています。

      また私の師匠は、若い頃歯が1本しかない状態でトロンボーンを吹いていたと言う、管楽器奏者では考えられないことをしていた人なので、歯並びが悪いから音が出ないと言う生徒には「全く関係ない!」とよく怒っていました。
      そういう師匠に学んだので、私自身は結構出っ歯ですが歯並びなどは全く気にせず吹いていました。
      実際、音に関しては褒められることはあっても良くないと言われることは一度もありませんでした。
      そうならばそのように、人間上手くやっていくもんですね。

      矯正による歯並びの変化は、金管楽器だと徐々に徐々に動いていく歯と唇や口周りの筋肉との接着面や使い方の変化、そして器具とマウスピースに挟まれた唇の圧迫による痛みなども生みます。
      考え方は色々あるのですが、痛みもコンディションの一つとしてとらえる事もしています。
      「痛いから出来ない」と「痛くても出来る」は違うので、「体がだるくてできない」と「だるくても出来る」というようなコンディションの一つとして考えると、痛い時の練習の仕方に使えます。
      コンディションとして考えると、そういう状態で出来る事を探すので無理をすることもなくなりますし、ケガをする確率も減り負担も最低限でできますからね。

      私は名古屋在住なのですが、5月に東京で初のワークショップをします。
      身体の使い方だけでなく、このように練習の仕方にもアレクサンダーテクニークは使えます。
      宜しければご参加ください。

      今後ともよろしくお願いいたします。

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